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シナリオ入門(研究編)

ドラマの葛藤について

人間を本性まで立体的に見せる方法は
葛藤
である。

とシナリオライターの岡本克己氏は言っています。

どういう意味でしょうか。

まず、"葛藤"とは何か。
広辞苑で調べてみます。

「葛藤」
葛や藤のつるがもつれからむことから
  1.もつれ。いざこざ。悶着。争い。
  2.心の中に、それぞれ違った方向あるいは相反する方向の力があって、その選択に迷う状態。

もう少し深く具体的に追求してみます。
八住利夫氏は、その著、シナリオ教室の中でロシアのエウゲニイ・ガブリロヰ チの著書から、O.ヘンリの短編小説を例にあげて興味深い説明をしてくれています。(""内以外の文は筆者)

例えば、妻が夫に桃を買ってきて欲しいと頼む。
これだけでは、ドラマに何の面白みもありません。
ところが、もう夜も遅く、店はすでにしまっているということにしたら、少し は面白くなる。
障害を設定したわけです。
しかし、翌日に買いにいけばそれですむ話ですから、ドラマ的にまだ弱いと言えます。
ならば次のようにしたらどうでしょう。
"もしこの夫婦が密月の時代にいて、夫はこの上なく妻を愛し、妻のいうことはどんなことでもしてやろうと思っている。そのために妻は甘やかされていて、明日の朝ではなく、どうしても今、すなわちこの夜おそくに桃を手に入れて来てくれとたのんだ。"

たかが桃一つです。たかが桃一つのことで夜中に町中を駆けずり回る夫の姿が
思い浮かび、面白いドラマが出来上がりそうな予感がしてきます。

そこで、O.ヘンリが登場します。
O.ヘンリの短編では、桃を手に入れるのが困難な状況の中で、次のような"葛藤"を挿入しました。

"「桃はないが、みかんならある」
桃を捜している夫が行く先々に、桃はないが、みかんならあるのである。しかもどれもこれも申し分がないほどの立派なみかんである。このことは、桃 を手に入れる困難さを一層強めるために役立つ。つまり、夫は、みかんはどんな見事なものであっても、見向きもしない。彼は桃を捜しているのである。"

ここで、冒頭の岡本克己氏の言葉を思い出してください。

"人間を本性まで立体的に見せる方法は、葛藤である。"

妻を心底愛していればこそ、みかんで妥協しようとしない。
滑稽なほど妻を愛している夫の人間性が浮き彫りになったわけです。

ところで、この説明の中で、八住氏(ガブリロヰチ)は、葛藤という言葉を使っていません。
これは葛藤を説明しているのだなと筆者が勝手に解釈して紹介したわけなのですが、実は主題の「芽」を見つけるための説明をした文章なのです。

"何よりも先に、物語を興味深く、スピーディに、そして思いがけない方向に展開させる可能性をその中にかくしているところの、主題の「芽」を見つけださねばならぬ"

主題の芽とは、たぶん、モチーフのことでしょう。
では、モチーフとは何か。カタカナ語の辞典で引いてみると

芸術的創作活動の動機となるもの。特に、作品によって表そうとする中心思想や構想、主題を言う。また、題材。

作家がこの作品を最後まで書きあげようという気持ちにさせる主題を含んだ独自のひらめきみたいなもの、と筆者は理解しています。
上記の短編で言えば、やはり「桃はないが、みかんはある」がモチーフでしょう。
ドラマの創作に限って言えば、葛藤とモチーフはイコールになることが多いと思います。
なぜなら、葛藤こそが、ドラマの核となる一番面白い部分だからです。

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